empirestate’s blog

主に政治…というよりは政治「思想」について書いています。

「韓国語には約束という言葉がない」という言説

少し前に、「韓国語には約束という言葉がない。なぜなら朝鮮民族には約束という概念がなく、自己中心的で平気で裏切るからだ」というような言説を聞いたことがあります。

私はこれを聞いた時、「約束という概念がない民族なんて存在しうるのか?もしそうなら商売上の契約なんかはなんて言うんだ?どうせ「約束」という漢語はあるけど朝鮮語固有語ではない、もしくは知られていないとかそういうオチだろ」と思っていました。インターネット上には、この手の朝鮮(韓国、北朝鮮含む)に対するネガキャンのような言説がやたらと多いので、いちいち検証もしていないのですが、これについては少し気になったので、しばらく後で調べてみました。

まずインターネットで「約束 韓国語」で検索してみますと、

「約束 yagsog」(ヤクソクと読むらしい)

普通に出てきました。(ハングルは読めないし書けないので省略)
どうやら思った通り、「約束」という漢語はあるけど朝鮮語固有語(日本語の和語に相当)は不明、という状況のようです。
で、インターネット上の質問コーナー(ヤフー知恵袋とか)などを見てみますと、この「約束」が日本語と同じ発音なせいか、「約束という言葉は日本統治時代に日本からもたらされたもので、それ以前には約束という概念はなかった」とか「朝鮮語固有語には約束という言葉がない」とかそういう話になっているようでした。

で、和語で約束に当たる言葉は「取り決め」だろうと思ったので、「取り決め 韓国語」で検索してみますと、

「取り決め dong-ui」

普通に出てきました。(取り決める、決める、結ぶ等もあった)
インターネット上では、「和語で約束に当たるのは『契り』」という話が出ていたので、「契り」も検索してみましたが、当時は見つけられませんでした。
少し気になったので、図書館で韓和辞典(韓国語ー日本語)を調べてみたら、韓国語の「契り」「契る」を見つけることができました。(ついでに「誓い」「誓う」も見つけました)ハングルは読めないので、発音までは分かりませんでしたが。

オンライン辞書でもありました。
m.kpedia.jp

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m.kpedia.jp


その後でまた「契り 韓国語」で検索してみたらなぜか今度は普通に出てきましたが、表示されていたハングルが辞典とは違っていたので、複数の言い回しがあるようです。

これらが漢語なのか朝鮮語固有語なのかまではわかりませんでしたが、たとえこれらが全て漢語だったとしても、「約束」とか「取り決め」とかの概念がなければそれに相当する漢語を取り入れることもその意味を理解することもないでしょうから、たとえ今は忘れられていたとしても、かつてはそれに相当する言葉があったと考えていいでしょう。また、ネット上の質問コーナーでは、「韓国語では『〜することにする』という言い回しが『約束』の意味でよく使われる」という情報もありました。(別のサイトでもこれについて述べられていた)
 
そんなわけで、「韓国語には約束という言葉がない」という言説は誤りであったわけです。まあ常識的に考えて、約束という概念がない民族が存在しうるとか、そのような民族が社会を形成して商取引などを行っていたとかは真面目には信じがたいことですから、当たり前と言えば当たり前です。

それでも、ネット上の質問コーナーなどでは、「韓国朝鮮語には約束という言葉がありますか?」という問いに対して、「ありません。約束という概念がありません」というような答えが出され、それがベストアンサーに選ばれたりしていましたが。

この件で、少し思い出したことがありました。その昔、私はインターネット上で、「韓国にはホンタクという人糞に漬け込んだ漬け物が存在する」という話を聞いたことがありました。
で、当時の私は、「世界にはいろんな料理があるものだなあ。まあ東アフリカの一部では牛糞を燃料に使ったりするらしいし、そういうこともあるか。でも現代の韓国の若者にとっては、そういうのは忌まわしい過去なんだろうな」みたいに思った覚えがあります。

しかし、それから何年か経って、実はこの「ホンタクは人糞漬け」だという話はガセネタらしい、というサイトをたまたま見つけたのでした。
それによると、韓国語では藁などの「堆肥」と、「糞」の発音が同じであるため、「堆肥」の中で発酵させたものを、「糞」に漬け込んだと勘違い(あるいは、意図的にミスリード)したものであったとのことでした。私はその間ずっと、この話が本当だと単純に信じていたので、軽く衝撃的でした。(そういえば、この頃にはホンタクの話をめっきり聞かなくなっていました)
しかし、これで韓国の汚名が晴れたわけではなく、今度は「トンスル」という人糞から作った酒だというものをあげて、「やっぱり韓国人は糞を食う民族だ!汚らわしい!」ということになっているようでした。
もっとも、そのサイトではこのトンスルについても解説されていて、それによるとこれは日常的に飲む酒ではなく、「薬」としての薬用酒で、また日本でも、糞を使った薬について知られており、それについての本も出ていた、とのことでした。もともと漢方医学では自然界の様々な原料を使った薬が知られていますから、糞を使った薬もそのうちの一つなのでしょう。ちなみに、糞を薬に使うという発想は、古代エジプトにもあった覚えがあります。現代医学では否定されているでしょうが。

しかし、私がこの件で印象的だったのは、ホンタクやトンスルそれ自体というより、それについての人々の反応でした。
というのは、私自身は、ホンタクが糞漬けだと信じていた時でも「世界にはそんなものもあるのだな」と思うだけで、それのために特に韓国を嫌うということはなかったのに、インターネット上では、ホンタクがガセネタだと分かった後でも、今度はトンスルを取り上げて、「やっぱり朝鮮は汚らわしい!」というふうになっていたからです。

で、私が思うには、こうした人々は「韓国がひどい国だから」韓国を嫌っているのではなく、最初から韓国を貶めることを目的にしていて、それを補強するような情報をあちこちから探し出しているのではないか、その結果、「韓国はこんなにひどい国だ」ということになるのではないか、と思われたのです。

この件で、さらに思い出したことがあります。この手の韓国に対するネガキャンの古典的なものの一つに、「嫌韓流」という本があります。この本は様々な例をあげつつ、「韓国はこんなにひどい国だ!」と述べている本のようです。
で、私はこの「嫌韓流」は読んだことがないのですが、それに対抗して韓国で出されたという「嫌日流」という本を読んだことがあります。この「嫌日流」は、様々な例をあげつつ、「日本はこんなにひどい国だ!」と延々と述べているのですが、その中で挙げられている例はほとんど、日本人である私も知らないようなことばかりで、「本当にこんなことあったのか?本当だとしても、ごく一部であっただけではないか?偏った視点で物事の一面だけ見ているのではないか?」というような内容だった覚えがあります。

私が思うに、恐らく日本で出されている韓国に対するネガキャンも、多くはこの手のものなのではないかという気がします。根拠不明な、あるいは事実だったとしてもごく一部の、あるいは偏った視点で一面だけを見たものを、韓国(あるいは朝鮮)全体の、あるいは固有の問題であるかのように述べたものなのではないかと思えるのです。

すでに述べたように、ネット上にはこの手の根拠不明なネガキャンがやたらと多いので、いちいち検証もしていないのですが、中には明らかな捏造も含まれているという声もあります。
私は、東日本大震災で多くのデマが出回って以来、ネット上の情報を安易に信じないようにはなりましたが、それでも、さも当然のように書かれているので、ついうっかり信じてしまいそうな情報もたまにあります。

恐らく、韓国でもこの手の日本に対するネガキャンが多く流れていて、それによって「悪しき日本」のイメージが、人々の間で形作られているという面があるのではないかと思います。こうした悪意の拡散は、インターネットが普及した現代ならではの社会問題なのかもしれません。

しかし、日韓でのこうした仲違いは、日本にとっても韓国にとっても良くないことだと思います。なぜなら、日韓は隣り合う国であり、一方が他方に与える影響は良くも悪くも大きいであろうし、また日本と韓国はアメリカ、オーストラリアも含めて同盟を組み、中国、北朝鮮に対抗しているという同盟国の関係であるからです。
つまり、日韓が仲違いすれば、そこに中朝が付け込んでくる恐れがあるわけで、極端な話、そこから東アジアのバランスが崩壊することだってあり得るだろうからです。日韓にとっては、お互いよりも、北朝鮮のほうが現実的で直接的な脅威であるはずです。

日韓は、北朝鮮との間には容易には越えがたい壁がありますが、お互いの関係は双方の「風潮」が変わりさえすれば改善しうるのではないかと私は思いますし、また改善したほうが双方のためでもあろうと思います。外務省の「最近の日韓関係」などを読んでみますと、日本政府も基本的にはそういう方針のようです。
私も、日本政府の方針に賛成しています。