empirestate’s blog

主に政治…というよりは政治「思想」について書いています。

改憲について4

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最近また改憲の話が一部で持ち上がってきました。
改憲は今やるべきことなのかという意見もあるでしょうが、今でなくても今後出てくる可能性がありますので改めて私の考えを書いておきます。


自分としては、改憲は9条だけを変えて自衛権を明記するという内容なら賛成できます。それ以外の部分については内容にもよりますが基本的には変えるべきではないと思います。特に人権を保証する条項は変えるべきではない。緊急事態条項については、発動要件が厳格で歯止めが十分ならともかく、今の案はそこが怪しいので個別の法律で対処するべきだと今のところは思います。
もっとも、仮にこの自衛権明記の案が出されて否決されたとしても、少なくとも従来認められてきた個別的自衛権(自国単体を防衛する権利)は否定されないはずだと思いますが。(私としては集団的自衛権にも同意してます)


改憲するにしても、まずそれは立憲主義的な改憲でなくてはならない、というのは前提としてあります。つまり、政治権力が一部に集中して専制化することを防ぎ、政治権力を制限することによって国民の権利(人権)を保証するということで、憲法はこの立憲主義の、全部ではないにしても重要な一角を担っているわけです。(他には、三権分立や法の支配、民主制の保証なども立憲主義に含まれます)

それというのも、もしこのような権力への制限がなかったとしたら、権力を持つ政府が国民を一方的に弾圧するということがあり得るし、それは日本でも他の国々でも実際に起こってきた(今も起こっている)ことですから、その反省の上にこうした立憲主義が存在しているわけです。(仮に財産権や人身の自由が法的に保証されていなければ、政府が一方的に国民の財産を没収したり逮捕投獄したりすることも法的にはあり得る)
ですから、2012年の自民党改憲案のような人権を制限する、というより人権の意味自体を書き変えるような改憲には断然反対です。


そんなわけで法的な人権の保証は必要だと思いますが、今の憲法の国民の権利に関わる条項は、改定を必要とするほど不足しているとは私は思いません。(同性婚を合法化するために「両性の合意」を「両者の合意」に変えるべきだとかいう意見はありますが)
なので、従来主な争点になってきた9条のほうなら、そこに自衛権を明記する案なら私は賛成できます。


ところで、今の憲法の9条の1項は「国際紛争を解決する手段としての戦争」を禁じていますが、このような規定または類似の規定は日本だけでなく他のいくつかの国々にもあります。(フランス、イタリア、ドイツ、フィリピン、韓国など)意外にも、近年軍事的な圧力を強めている中国の憲法にも、内政不干渉、相互不可侵の原則があるそうです。(何らかの平和主義の規定を持っている国は150ヶ国にのぼるといい、日本のそれはより踏み込んだ規定であるとしても、日本だけが特殊というわけではありません。)

とはいえ、これらの国々はだいたい軍を持っていますし、日本にも防衛のための組織として自衛隊があるわけですから、こうした規定は一切の軍事行動を禁じるものなのではなくて、「侵略戦争」を否定したものであるというべきでしょう。こうした解釈は国際標準的なものだとも言われますし、従来日本政府もこのように解釈してきたといいます。私としてもそれは妥当なところだと思います。


一方で、9条の2項(戦力不保持、交戦権の否定)はもっと踏み込んだ規定になっており、むしろ物議を醸してきたのはこちらのようですが、実は今の憲法にも自衛権を確保するための文言があるそうで、2項の「前項の目的を達するために」がそれだと言われます。
つまり、これが前項の侵略戦争の否定につながることで、侵略行為のための戦力や交戦権は認められないけれど、それとは別に自衛のための最小限度の実力は認められると解釈して、自衛権を認めているのだと言います。(参考)*1
もっとも、これは明記された権利というより容認ですから、その点で自衛隊違憲論などの物議を醸してきた歴史があるようですが、そこで自衛権を明記してそれを確保し、より自衛隊が活動しやすくなるようにしようというなら、それは賛成できるところだと私は思います。もっとも、今のようなより限定された仕方だからこそ出来ていたことというのもあるでしょうから、慎重論も否定しませんが、少なくとも従来認められてきた自衛権については、憲法の条文が変わろうと変わるまいと確保するべきだと私は思います。


一方で、このような自衛隊の権限を広げることについての根強い反対が社会の一部にある理由には、かつての軍国主義、軍政への反省があると思いますし、その懸念は妥当なことだと思いますが、かつての日本で軍国主義が台頭したのは単に軍があったからではなくて、戦前の旧憲法(大日本帝国憲法/明治憲法)下の体制自体がそれを許す体制になっていたからだと思います。
つまり、旧憲法では今の憲法とは違って原則として天皇主権であり、人権の保証が弱く、また主権者である天皇が軍の統帥権を持っていたために軍が他の政府組織から独立した地位を持ち、これが軍国主義、軍の支配につながっていったと指摘されています。*2
その反省の上で、今の憲法国民主権基本的人権の尊重、平和主義を持っているわけで(そして、今の自衛隊は内閣の行政権に含まれるものとみなされ、文民統制に服している)、こうした基本的な原則はたとえ改憲するにしても守られるべきだと思います。

*1:「…恒久の平和は、日本国民の念願です。この平和主義の理想を掲げる日本国憲法は、第9条に戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認に関する規定を置いています。もとより、わが国が独立国である以上、この規定は、主権国家としての固有の自衛権を否定するものではありません。政府は、このようにわが国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏づける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上認められると解しています。…」 出典:防衛省ホームページ https://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/kihon02.html

*2:文民統制」について 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説 「…第二次世界大戦前の日本においては、文民統制の思想はなかった。大日本帝国憲法明治憲法)では、陸・海軍の統帥権(11条)、軍隊の編制(12条)、宣戦・講和(13条)、戒厳(14条)の権限は天皇に属し、これについては、帝国議会も内閣も関与できなかったからである。このことが、軍閥軍国主義の形成を生み、1931年(昭和6)の満州事変から敗戦に至るまでの悲惨な十五年戦争に突入する要因となったことはいうまでもない…」 知恵蔵の解説 「…日本の場合は、この2つに加えて、「天皇による統帥権」の名の下に軍部の独走を許した第2次世界大戦前の歴史を踏まえて…」 https://kotobank.jp/word/%E6%96%87%E6%B0%91%E7%B5%B1%E5%88%B6-128684