empirestate’s blog

主に政治…というよりは政治「思想」について書いています。

安全保障と政治思想

安全保障…特に軍事に対する態度は、しばしば日本において政治的な立場が強く対立する問題となっていると思います。

これは戦後の日本が直接の反省の対象としてきたのが昭和の軍国主義体制であることから来ているのでしょうが、またその軍国主義体制自体が、大日本帝国時代の天皇主権の体制を基礎にして出来ていたので、根が深い問題だと思います。

軍国主義とは単に軍があることや軍事力が強いことを言うのではなく、国の政治・経済・文化全般を軍事に従属させ,戦争または戦争準備のための制度・政策を最高位に置く思想・体制だと言われます。日本だけでなく、軍が支配する各国の軍事政権もこれに数えられることがあります。*1
私はもちろん軍国主義体制も天皇主権の体制も支持しませんが(天皇制自体は支持していますが)、それとは別に今の日本を守るための軍事力は必要だと思います。それは、それこそ軍国主義体制の下では存在しなかったような自由を守るためでもあると思います。


ところで、素人考えですが、安全保障政策とは何を目的にしているのかと言えば、それは自国の安全を守ることであり、もっと言えば国民の生命、財産、自由を守ることであると思います。

ですから、軍事的な手段にしても非軍事的な手段にしても、それは安全保障のための一つの方法であって、目的ではないわけです。

そしてその点で言えば、第二次大戦後の日本がとってきた国際協調を重視して戦争が起こらないようにするという政策も、そうすることによって自国の安全を守るという目的で主に行われてきたのだと言えましょう。
そして実際、日本や欧州の多くの地域ではここ数十年国と国との戦争は起こってこなかったわけですから、その意味で確かに「実績」はあります。
しかし、それが今後も有効であるという保証はないし、ロシアの侵攻でなおさら危うくなっているところですから、そのための軍事力というのもやはり必要になってくるのだと思います。

もちろん平和主義の外交は安全保障の目的だけでなく道義的にも正しいことではあるでしょうが、道義という点で言えば「同胞を守るために戦う」ということだって一つの道義なわけですから、一方は道義的で他方はそうではないとか、一方は理想主義で他方は現実主義だとかいうものでは(本来は)ないと思います。

また軍事的な手段にしても、日本一国だけで十分自衛できるというわけでもないですから日米同盟があるし、米国だけでなく韓国やオーストラリアやインドとの協力関係もあるわけで、この点でも国際協調はやはり必要になってくるでしょう。


他国との経済的な関係が深いことが抑止力になるという意見もあります。
これも絶対というわけではないでしょうが、抑止力の一部にはなると思います。中国の政策に反対しつつ、あまり中国に強く出られない国々は、中国との経済的な関係が深いためにそうなのだと言われることがあります。逆に言えば、中国からすれば自国の経済は他国に対する抑止力になっているわけですから。
ドイツがロシアへの経済制裁に後ろ向きだったのは、ドイツ(だけでなくEUもですが)がロシア産のエネルギーに依存しているからだとも言われていました。この点でも、ロシアからすればこの関係が抑止力になっていると言えましょう。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR265I70W2A220C2000000/

…ロシア経済に打撃を与える強力な制裁となる一方、天然ガスなどのエネルギー調達への影響が懸念されていた。

ドイツ案の具体的な中身は明らかになっていないが、欧州経済への副作用を避けようとして対象などを制限すれば、それに従ってロシア経済への打撃も小さくなる。制裁として十分な効果を発揮できるかは読みにくい部分が残る。…

一方で、それでもドイツが結局は経済制裁を決めたのは、ことが重大であり、他国との国際的な連携を無視できなかったからですし、ウクライナが当初の予想より善戦できているのも、ウクライナが国際的な支援を受けて武器や資金の提供を受けているからでしょう。その点やはり国際協調は無視できない要素であると思います。

また国内政治については、ウクライナが侵攻を受けたのは国内のロシア系住民や親ロシア派地域との紛争にロシアが介入したからでもあります。
もちろんだから侵攻が正当化されるというわけではありませんが、国内で分断を抱えているとそこにつけこまれて自国の安全保障が危うくなる可能性があるとは言えるでしょう。ロシアが侵攻を決めたのも、アメリカが国内の分断で国際社会での指導力が低下した隙間をついたのだろうという分析もありました。*2
この点で、国内の融和に努めるということも安全保障に資すると思います。

ですから、経済的に豊かになり、国際社会との関係も良好で、国内でも分断が少なければ、それが安全保障に資することだと思います。安全保障を別にしても、それは社会的に望ましいことだとも思いますし。
冷戦でソ連が崩壊したのも軍事で劣ったというよりはそれを支える経済や社会が立ち行かなくなったからでしょうし、軍事だけに集中しては軍事も立ち行かなくなるだろうと思います。
それに加えて軍事的に必要なことがあればやるべきだと思いますが、それにしてもバランスを取る必要はあるでしょう。

*1:https://kotobank.jp/word/%E8%BB%8D%E5%9B%BD%E4%B8%BB%E7%BE%A9-58324 ❝旺文社日本史事典 三訂版の解説 軍国主義 ぐんこくしゅぎ 国の政治・経済・文化全般を軍事に従属させ,戦争または戦争準備のための制度・政策を最高位に置くという思想・体制 日本の場合,明治時代以来,天皇制と不可分に結合して発展。昭和期に入りその傾向は特に著しくなり,ファシズムの確立をみた。第二次世界大戦後,ポツダム宣言に基づく占領政策は,日本軍国主義の除去をめざした。❞

*2:https://www.tokyo-np.co.jp/article/162144 ❝…米国が国内の分断などで指導力が低下した今こそ武力で国際秩序を変更する好機到来とプーチン氏はみなしたのだろう。…❞