empirestate’s blog

主に政治…というよりは政治「思想」について書いています。

何のために国を守るか

人によって自国の「何」に愛着を持つかは違うと思いますが、私にとっては国に「自由」があるということが根本的に重要なことです。

つまり、人身の自由や思想良心の自由や表現の自由(言論の自由)や財産権といった人権が保証されていること、また国民主権とそれを具体的に実現するための民主的な仕組みが保証されていること、そしてその国が独立国であることによって、この世で政治的なレベルでは誰かに隷属することなく独立しているということ、少なくとも法的にはそういうことになっているということです。

近年は後退しつつあるように思いますが、この自由があるからこそそれを守るための軍事力が必要だと思いますし、そのために場合によっては闘う必要もあるのだと思います。

もしそうではなくて、「自由」がないのだとしたら、たとえ生命と財産が保護されていても、それは私にとって価値ある生だとは思いません。もちろん生命や財産も基本的な必要であるのは確かですけど。

仮に自由がなくても生命や財産があればいいというなら、それこそ奴隷制度があった時代の奴隷だって生きていればそれでいいということになるでしょうし、ロシアや中国のように自由がない国でも、政府に逆らわずに権威に忠実であれば生きていけるのだからそれでいいということになるでしょう。その上中国は経済的にも豊かなわけですし。



人によっては、自国の文化や歴史に愛着があるという人もいると思います。
私も、日本の歴史や文化には(その全てに対してではないにしても)それなりに愛着はあります。

しかし、仮に日本から自由が失われてしまえば、私にとっては「文化は好きだけど政治的には支持できない国」になると思います。それは例えば中国のようなもので、中華料理は好きだけど中国政府の政治は全く支持できないというような、そういう存在になると思います。

仮に日本から自由が失われてしまったら、物理的に日本が残っていてもそれは一種の亡国だと思いますし、国安法施行後の香港からの亡命者が今の香港を見るような思いがするだろうと思います。



この点で、日本はやや特殊な歴史的経緯を持っているように思います。
多くの国では、自国の独裁政権を倒すとか、かつて植民地だった国が宗主国と闘って独立を勝ち取るとかしてきたと思います。

日本では明治から大正期あたりは国がそうした役割を果たしていたと思いますが、後には国によって国内の自由主義の運動が弾圧されるようになっていき、国の外交関係はともかく、個々の国民の市民的自由については、むしろ外国に占領されることによって得られたという面があると思うからです。この点では、むしろ香港に近いものがあるかも知れません。

とはいえ、帝国時代にしても、自由民権運動大正デモクラシーのように少なくとも部分的には自由主義の運動があったし、戦後の民主主義もその基礎があったからこそ成立したものだとは思います。日本国憲法も、直接にはGHQの草案が元になっているにしても、その草案は日本国内の在野の憲法研究会の草案の影響を受けていると言われますし、*1
日本に自由主義の歴史がないわけではないはずです。

それに、来歴はどうあれ、戦後の日本は法的には世界の中でも比較的に自由が保証されてきたほうだと思います。



そしてこのような自由は、基本的にはその国の国民が自ら守らなければならないものだと思います。

アメリカは中東ではサウジアラビアと同盟関係にありますが、サウジアラビア政教一致の体制で人権侵害が行われていると常々指摘されてきました。それでもアメリカはそれを見過ごしてきました。
アメリカにとっては、この同盟関係が自国の利益になっていれば、他国の国内の人権侵害にはそこまで深入りしないというわけでしょう。アメリカも自国の利益のために同盟しているわけだから当然と言えば当然ですが。

韓国が軍事独裁政権だった頃も、日本は当時の韓国との関係は良好だったとか言いますし、ロシアが権威主義体制になったのは昨日今日のことではないけれど、ロシアが他国に侵攻して現実的な脅威になるまでは、欧米の国々もロシアに大して干渉してこなかったでしょう。

ですから、仮に日本で自由が失われても、その日本の体制が他国にとって利益になってさえいれば、他国は日本国内の人権侵害に大して関心を持たないでしょう。中国でのウイグルや香港レベルの人権侵害が行われるようになれば多少は非難してくれるかも知れませんが、中国はこうした非難に内政干渉だといって反発し続けていますし、その時には日本もそうするでしょう。

ですから、このように自由が失われないようにするためには、本来は日本の国民がそのために「不断の努力」をする必要があるはずです。



自民党は2012年の改憲草案で天賦人権説を否定し、個人主義を弱めて家族の地位を強め、国旗、国歌への尊重を義務付け、ゆるい歯止めで三権分立を停止して内閣に強力な権限を与える緊急事態条項の案などを出していましたし、2018年案ではさらに歯止めをゆるめた緊急事態条項の案を出していました。
報道や教育にも圧力をかけていたと言われますし、最近は侮辱罪厳罰化の案が濫用されかねないと言われています。
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それでも自民党は2012年以降もずっと手堅い支持を受け続けていますし、今度の参院選でも多数派は揺るがないでしょうから、今後の日本でさらに自由が失われていくのは確実なように思われます。あとはどれだけ失われる自由が少なく済むかの問題でしょう。(これが杞憂で済めばそれでいいですが、こうしたことは常に考慮しておかねばなりませんから)

もっとも、例えば緊急時に移動の自由や集会結社の自由が制限されるとか、思想良心の自由は絶対であるにしても、外的な行動が「公共の福祉」のために合理的な範囲で制限されるとかいったことは不当だとは思いませんが、政府がそれを合理的な範囲にとどめてくれるかどうかは正直怪しいものだと思います。

私は少なくとも人身の自由や思想良心の自由や表現の自由や財産権のような核心的な権利は守られることを求めています。

*1:ラウエル「私的グループによる憲法改正草案(憲法研究会案)に対する所見」 1946年1月11日 | 日本国憲法の誕生憲法研究会案とGHQ草案との近似性は早くから指摘されていたが、1959(昭和34)年にこの文書の存在が明らかになったことで、憲法研究会案がGHQ草案作成に大きな影響を与えていたことが確認された。❞

*2:https://www.jiji.com/jc/article?k=2022042300333&g=pol(2022年04月24日) ❝インターネット上の中傷抑止が狙いだが、改正案では恣意(しい)的な適用への歯止めが効かず、政府による「言論弾圧」につながりかねないとの主張だ。既に対案となる議員立法を国会に提出。修正も含め見直しを求めている。❞

*3:https://www.tokyo-np.co.jp/article/56517 (2020年9月19日) ❝菅義偉政権がスタートした。7年8カ月続いた安倍晋三政権、安倍自民党時代は報道機関、特にテレビ局への「圧力」が取り沙汰された❞

*4:https://news.yahoo.co.jp/byline/watanabeteruhito/20160709-00059798 (2016/7/9)❝参院選の投票日を前にして、自民党が教員の政治的な発言の密告を受け付けるホームページを作成していたことが発覚し、物議を醸しています。❞