empirestate’s blog

主に政治…というよりは政治「思想」について書いています。あと読書感想文とか。

権力の濫用を防ぐための規定

自民党案の緊急事態条項もそうでしょうが、時の政権に濫用されかねないような制度があっても、それが濫用されずに済む道はあります。

それは、時の為政者がたまたま良心的で節度ある人間であることによって、しようと思えばできるけど、「濫用しないでいてくれる」場合です。

ですから、この場合は為政者の理性と良心が濫用されないための歯止めになります。


しかし、もしこれで十分であるならば、帝政中国のような専制君主制でも、君主の個人的な人徳が歯止めになっているのだからそれでいいということになるでしょう。

しかし実際には、そのように個人的な徳に頼るのでは十分ではないと見なされるようになったからこそ、近現代の政治ではもっと法的で制度的な歯止めをかけるようになったのであるはずです。

仮に、時の為政者が権力を濫用しようと思えばできるけど、「今はしないでおいてくれる」という場合、それは無論実際に濫用されるよりはずっといいですが、それはつまるところ生殺与奪の権を握られている状態なのであって、本当に自由なのではないし、法的に権利が保証されている状態でもないと思います。

そして、自分の権利が法的に保証されないのだとしたら、それはつまり法があてにならない社会なのであって、そうなると、それこそ中国がそうだと言われるように、有力者とコネをつくっておくとか、賄賂を送って便宜をはかってもらうとか、資産をためておいて海外に逃げられるようにしておくとかいう、法に頼らない、法の網の目をくぐるような処世術を実践しなければ生きていけないといったことになるでしょう。

皆がそのような処世術を使うようになれば社会がどうなるかということも、すでに中国がその実例になっているような気がしますが、実際そうしなければ生きていけないのだとしたらやはりそうせざるを得ないわけで、そうなるともう雪崩が止まらないということにもなるでしょう。
もっとも、今にしても法が十分にあてになるかといったら必ずしもそうではないでしょうが、近年の政治情勢からすれば、今後は少なくとも今以上には中国の処世術を学ばなければならない社会になりつつあるようにも思えます。
希望的観測をいえば、日本はいきなり中国やロシアのようにはならないかも知れませんが、フィリピンやトルコぐらいにはなっていきそうな気もします。



緊急事態条項について調べていて初めて知ったことですが、自民党案の緊急事態条項(2018年案)にあるような、国会の立法を待たずに内閣が政令を出せる緊急措置の制度は、実は憲法ではない個別の法律のうちにすでにあります。(災害対策基本法、国民保護法❨武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律❩、新型インフルエンザ等対策特別措置法)

しかも自民党案とは違って、こうした法律ではこの権限を行使できるための条件や対象が厳格に規定されていて、また目的として「公共の福祉のため」という目的が明確に規定されていて(そして公共の福祉は人権を前提にした概念でもある)、また後で国会や参議院の緊急集会の承認が得られなければ失効する、などの規定もあります。
つまり、この制度が濫用されないための歯止めが慎重にかけられた状態で存在しています。*1
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また、災害対策基本法の、緊急措置があとで国会や緊急集会によって承認されなければ失効するという規定(109条3~7項)は、国民保護法や新型インフルエンザ等対策特別措置法でも準用されています。
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私はこれを知って、緊急事態条項の創設に反対する政党や弁護士会が声明などで「緊急時にも個別の法律で対処できる」と言っていた意味がわかった気がします。
もっとも、私は政治家でも法律家でもないので、こうした法律だけで十分なのかどうかは判断できませんが、仮に創設するにしても濫用できないようにするための歯止めをかけておくのは当然のことでしょう。自民党にそうする意志があるかは、2012年の案や2018年の案を見ても相当怪しいと思いますが。


悪名高い治安維持法大日本帝国憲法の緊急勅令で制定された(改正された)ものですが、この緊急勅令による改正(1928年)は大日本帝国憲法の施行(1889年公布、1890年施行)からは38年ほど後のことです。
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ですから、こうした制度はしばらくは濫用されずに済んでいても、後から濫用される可能性がありますし、その可能性を見越して濫用できないように制度をつくるのだと言うべきでしょう。仮に為政者に大権を与えておいてあとは為政者の人徳に期待するのだとしたら、それは民主制というより君主制の精神だと思います。

*1:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=336AC0000000223 災害対策基本法 (緊急措置) 第百九条 災害緊急事態に際し国の経済の秩序を維持し、及び公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置をまついとまがないときは、内閣は、次の各号に掲げる事項について必要な措置をとるため、政令を制定することができる。 一 その供給が特に不足している生活必需物資の配給又は譲渡若しくは引渡しの制限若しくは禁止 二 災害応急対策若しくは災害復旧又は国民生活の安定のため必要な物の価格又は役務その他の給付の対価の最高額の決定 三 金銭債務の支払(賃金、災害補償の給付金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払及びその支払のためにする銀行その他の金融機関の預金等の支払を除く。)の延期及び権利の保存期間の延長… …3 内閣は、第一項の規定により政令を制定した場合において、その必要がなくなつたときは、直ちに、これを廃止しなければならない。 4 内閣は、第一項の規定により政令を制定したときは、直ちに、国会の臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求め、かつ、そのとつた措置をなお継続すべき場合には、その政令に代わる法律が制定される措置をとり、その他の場合には、その政令を制定したことについて承認を求めなければならない。 5 第一項の規定により制定された政令は、既に廃止され、又はその有効期間が終了したものを除き、前項の国会の臨時会又は参議院の緊急集会においてその政令に代わる法律が制定されたときは、その法律の施行と同時に、その臨時会又は緊急集会においてその法律が制定されないこととなつたときは、制定されないこととなつた時に、その効力を失う。 6 前項の場合を除くほか、第一項の規定により制定された政令は、既に廃止され、又はその有効期間が終了したものを除き、第四項の国会の臨時会が開かれた日から起算して二十日を経過した時若しくはその臨時会の会期が終了した時のいずれか早い時に、又は同項の参議院の緊急集会が開かれた日から起算して十日を経過した時若しくはその緊急集会が終了した時のいずれか早い時にその効力を失う。 7 内閣は、前二項の規定により政令がその効力を失つたときは、直ちに、その旨を告示しなければならない。…

*2:自民党の緊急事態条項 2018年素案 (平成 30 年 3 月 26 日 自 由 民 主 党 憲法改正推進本部) 第七十三条の二 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法 律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。 ② 内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。 第六十四条の二 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の三分の二以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。

*3:https://thoz.org/law/%E5%B9%B3%E6%88%9016%E5%B9%B4%E6%B3%95%E5%BE%8B%E7%AC%AC112%E5%8F%B7/%E7%AC%AC130%E6%9D%A1%E7%AC%AC1%E9%A0%85/ 武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律 第130条 第2項 災害対策基本法第百九条第三項から第七項までの規定は、前項の場合について準用する。

*4:https://thoz.org/law/%E5%B9%B3%E6%88%9024%E5%B9%B4%E6%B3%95%E5%BE%8B%E7%AC%AC31%E5%8F%B7/%E7%AC%AC58%E6%9D%A1%E7%AC%AC1%E9%A0%85/ 新型インフルエンザ等対策特別措置法 第58条 第2項 災害対策基本法第百九条第三項から第七項までの規定は、前項の場合について準用する。

*5:https://kotobank.jp/word/%E6%B2%BB%E5%AE%89%E7%B6%AD%E6%8C%81%E6%B3%95-95574ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説 治安維持法 ちあんいじほう …さらに 28年の田中義一内閣は緊急勅令で法改正を行い,「国体変革」の罪には死刑をも適用することにした。さらに 41年には予防拘禁制の導入などの改正があり,最初7条だった治安維持法は 65条にもなった。この法の最初の適用は,25年 12月~26年4月の学連 (全日本学生社会科学連合会) 事件だが,第2次世界大戦後の 45年 10月に GHQ指令で廃止されるまで,社会主義運動や労働運動はもちろん,思想,学問,言論,表現など一切の自由への過酷な弾圧の法的根拠として,処断者は数万人にも及んだ。