empirestate’s blog

主に政治…というよりは政治「思想」について書いています。

旧社会主義国はなぜ独裁体制になったか

ソ連などの旧社会主義圏の国々は独裁体制だったとよく言われますし、私も基本的にはそうだったと思います。

それで東欧などで社会主義体制が倒れたことが「民主化」と呼ばれたりもしますが、ソ連にしても全権力は人民に属するとされて選挙も行われていたそうですから、別に「民主主義」でないわけではなかったと思います。

ここで言う民主化とは「自由化」ぐらいの意味でしょう。逆に言えば、名目上民主主義で選挙が行われていれば自由とは限らないとも言えますが。

 

ではなぜ旧社会主義圏では民主主義を指向しながら独裁になったのか?というのを個人的に考えてみました。と言っても私は共産主義社会主義についてはあまり詳しくないので個人的に気になったところだけの言及ですが。

社会主義国にも色々あるのでここでは特にソ連について考えます。というのは、ソ連のやり方が他の社会主義国のモデルになったという面が大きいと思うからです。(もっとも、社会主義自体はソ連(ロシア)発祥というわけではなく、むしろ輸入品に近いものだとは思いますが。)

ちなみに社会主義共産主義の関係については、一概には言えませんが、マルクス主義では共産主義より前の段階が社会主義で、社会主義がより発展した平等な状態が共産主義だとされているようです。

 

理論的なところから言えば、ソ連には「プロレタリア独裁」(プロレタリアート独裁)という理論があったと言われます。

これは社会主義を実現するための過渡的な政治形態としての、プロレタリア(労働者階級)のブルジョア(資本家階級)に対する独裁であり、これが労働者階級の利益を擁護しその政治的、経済的支配権を確立するとされたと言われます。

しかし、この理論はソ連共産党一党独裁を正当化し,その他の勢力に対する抑圧の手段となった結果,スターリン時代の粛清を生み出すことになったという指摘があります。

ソ連ではスターリン時代に、スターリンの反対派が、自らも人民の一員であるはずなのに「人民の敵」と呼ばれて無実の罪で大量に粛清されたと言われます。

 

ここには誰がその「労働者階級」で、誰が「資本家階級」なのか、誰がそれを判定するのかという問題もあるように思えます。仮にそれが誰かによって恣意的に決められるとしたら、ある者(や組織)は労働者の代表として独裁権を持つことになり、それに反対する者は権利を認められず弾圧されるということになりかねないので、これは個人の権利を危うくするものだと思います。

 

逆に、労働者が革命化することを恐れてこうした動きを強権で抑え込もうとしたのが広義のファシズム体制で、社会主義共産主義への対抗がファシズムの発生原因の一つに挙げられています。

ファシズムの場合は共産主義を敵視する「反共主義」の立場から対立する政治勢力を排除したという面があって、(スペイン内戦やドイツの国会放火事件、日本の治安維持法など)方向性は真逆ですがある意味ファシズムは裏返しの社会主義のようにも思えます。

 

プロレタリアート独裁(ぷろれたりあーとどくさい)とは? 意味や使い方 - コトバンク

 

百科事典マイペディアの解説

プロレタリアート独裁【プロレタリアートどくさい】

プロレタリア革命によって樹立される権力形態。資本主義社会から社会主義社会への変革の過程で生まれる。この時点ではプロレタリアートが社会の多数者であると考えられ,プロレタリアート独裁は多数者の少数者(ブルジョアジー)に対する独裁であり,プロレタリアートの利益を擁護し,その政治的・経済的支配権を確立する新しい型の民主主義(プロレタリア民主主義)であるとされる。…

 

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

プロレタリアート独裁

 

…そしてプロレタリアート自身が公的暴力を組織し,現実の国家機構の解体のうえに新しい労働者の国家を実現するための過渡的な形態として「プロレタリアートの階級独裁」をとらえなおしたのである。…しかし革命後のソビエトにおいて,この概念は共産党一党独裁を正当化し,その他の勢力に対する抑圧の手段となった結果,スターリン時代の粛清を生み出すことになった。…

 

制度的には、ソ連ソ連共産党による一党独裁だったと言われます。ソ連でもスターリンの死後はスターリン批判が行われ権力の集中を抑制する政策(集団指導制)がとられたけれど、多党制は崩壊する前年の1990年まで認められなかったというので、末期まで一党支配は変わらなかったわけです。

そうなると、共産党に対抗する他の政治的主体がないので、共産党に権力が集中し、万事が共産党を通じないと動かないということになり、これが独裁体制を支えるものになったと思います。ナチス党やファシスト党一党独裁だったと言われますが、やはり極端になると似たような体制になるということでしょう。

中国も実質的に一党独裁ですが、台湾(中華民国)も1980年代の半ばまでは中国国民党一党独裁だったと言われます。しかし台湾は後で多党制に移行したのに対して、大陸中国のほうは一党独裁のままだったので、これが今見るような台湾と中国の政治状況の差を作った一因かと思われます。

 

また、ソ連共産党には民主集中制と呼ばれる組織原理があって、この民主集中制とは、党組織の指導部は全て民主的な選挙によって選ばれるけど、そうして選ばれた指導部は中央集権的に組織を運営し、その決定には全党員が従わなければならないというものだったと言われます。

この原則は元々は「批判の自由と行動の統一」を両立させるための党内理論だったようですが、ソ連の一党支配の確立と共に集権主義的な傾向を強め、少数派は多数派に従い、下級機関は上級機関に従うといったトップダウン式の形式として政敵の粛清につながったとも言われます。

 

民主集中制(みんしゅしゅうちゅうせい)とは? 意味や使い方 - コトバンク

 

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

民主集中制

みんしゅしゅうちゅうせい

Democratic Centralism

…典型的には、スターリン時代の1934年にソ連共産党規約に明記され、各国共産党規約に採用された、〔1〕党の上から下まですべての指導機関の選挙制、〔2〕党組織に対する党機関の定期的報告義務制、〔3〕厳格な党規律と少数者の多数者への服従、〔4〕下級機関および全党員にとっての上級機関の決定の無条件的拘束性、の原則をいうが、その実際の運用にあたっては、「党内民主主義」を制限し、共産主義政党の国民に対する閉鎖性・抑圧性を印象づける現実的機能をも果たした。そのため1989年東欧革命前後に、イタリア、フランス、スペインなどの共産党民主集中制を放棄して変身をはかった。…

 

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

民主集中制

みんしゅしゅうちゅうせい

democratic centralism

…党員による民主主義的選挙に基づいて選出された指導部を中心に中央集権主義的に党組織を運営するもの。民主的中央集権主義ともいう。…だがこうした立場は,党内論争の目的意識的な組織化が実現されていかないとき,しばしば官僚主義へと転落する危険性をはらんでいる。スターリン時代のソ連共産党がその例で,そこでは民主集中制の名のもとに官僚的締めつけが強化され,反対派の大量粛清が行われた。

 

こうしたプロレタリア独裁一党独裁民主集中制が合わさって、異論を認めない、複数の政治的主体を認めない体制を作り、それが独裁や全体主義につながったと思います。そうしてみると、ソ連に見られたような社会主義は、「民主主義」ではあっても、権力の集中を防いで人民の自由を守るという意味での立憲主義自由主義は不足していたように思えます。

 

こうした反省から、主に西欧の共産党では、プロレタリア独裁民主集中制を放棄して多党制を認める、ユーロコミュニズムと呼ばれる社会主義思想が発展したと言われます。ユーロコミュニズム路線をとった共産党共産党を名乗らなくなったりもしたようですが、自分としては評価できる路線だと思います。

 

そんなわけで、自分としてはソ連や中国のような形態の社会主義は少なくとも受け入れられないところだと思います。

とはいえ、社会主義の主張に含まれる、労働者の権利の保護や人民の権利の主張や平等といった要素は、資本主義国でも多かれ少なかれ取り入れられている、あるいは共通の要素ですし、自分としてもこれらは必要なことだと思います。(ソ連社会主義を支持しないにしても、じゃあもっと前の帝政ロシアや帝政中国のほうがいいのかと言ったらそうとは言えませんし)

 

思うに、ファシズムの否定が国や民族自体の否定ではないのと同じように、社会主義(あるいは少なくともソ連社会主義)の否定も労働者の権利や平等の否定ではないので、両極端を避けつつ利点を取り入れるべきなんでしょう。

北欧のように、資本主義と自由主義を保ちつつ社会主義的な福祉制度を取り入れた例もありますし。

 

私は社会主義者ではないですが、仮に社会主義を目指すならユーロコミュニズムの路線か、あるいは資本主義の中では、北欧のように再分配を通して平等を進める、社会民主主義的な路線がいいと今のところは思います。社会民主主義の路線では北欧が有名ですが、イギリスやドイツもこの路線で福祉国家を整備したと言われます。

 

 

日本共産党について言えば、独立路線をとり、ソ連や中国の政治を否定しているところは評価できますが、日本共産党自体が党内で民主主義を確立できているかというとやはり疑問はあります。日本共産党プロレタリア独裁の規定は過去に削除したそうですし多党制も認めているものの、民主集中制は保っているようですし。

もっとも、日本共産党自体はスターリン民主集中制とは違って少数意見も尊重すると言ってはいますが、除名騒動もありましたし、現状だとやはり疑問はあります。

 

日本共産党は方針転換して、かつてのイタリア共産党のように中道左派社会民主主義に移行するべきだという意見は2022年にもありました。私は共産党の事情に詳しくないのでこの是非や現状どうなっているかは判断しづらいですが、もしそうなったら日本の政治状況も変わるかも知れないとは思います。

日本共産党は共産主義から転換すべき時 起きぬ革命と党勢衰退 | | 中北浩爾 | 毎日新聞「政治プレミア」